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ある古びた小さな店の、ウインドーにかざられているガラス細工の馬は、いつもこの店の前を通る青年にほのかな思いを抱いていました。
ガラス細工の馬は、その青年が店の前を通るたびに、心の中で叫びました。
「私をおそばにおいて下さい!」
「私を買って下さい。あなたのおそばにいさせて下さい!」
ガラスの馬は、少しでもその青年のそばにいられたらどんなにいいかしら……と、いつも思いつづけていたのです。
ふしぎなことに、ガラス細工の馬は、日ごとに青くそまってゆきます。
青年に会いたい、少しでもそばにいたいという、そんな思いが、ガラスの馬を青くさせたのでしょうか?
(少しでもそばにいたい。)
そんなねがいがかなう日が来ました。
青年は、みるたびに色のかわるガラス細工の馬がたいそう気に入り、クリスマス・イブの夜、その馬を買いました。
ガラスの馬はとてもよろこびました。恋こがれた青年と、毎日いっしょにいられるのですから、もう、うかれっぱなしでした。
でも、ねんがんがかない、よろこんだのもつかのまでした。
青年にはとてもかわいらしい恋人がいたのです。青年は毎日毎日、ガラス細工の馬にむかい、その恋人の話をするのです。
少しテレくさそうに、恋人の話をする青年には、ガラスの馬の目に光るものに、気づくゆとりなどありません。
(私はどうして、人間として生まれて来なかったのでしょう……。)
ガラス細工の馬の頭の中には、何度も、そんな思いがよぎりました。
つらい冬がやって来ました。やがて春になれば、青年はその恋人と結婚することになっていたのです。
(なんとかなしいことでしょう。)
ガラス細工の馬は、毎日毎日ねがいました。
「春などこなければよいのに……。」
ガラスの馬は、泣いて泣いて泣きまくりました。
いっしょうけんめい(春がこないように。)とねがっていても、春はもうすぐそこまで来ているのです。
× × ×
とうとう春がやって来ました。今日は青年の結婚式の日です。
青年は白いタキシードを着て、恋人は白いウェディングドレスにかわいいブーケを手にもって、それは一枚の絵をみているような美しい光景でした。
パイプオルガンの音、さんびかの歌声、神父さまのお話……。やがて青年の手から恋人のゆびに、ゆびわがはめられた時刻(とき)、ガラス細工の馬は、大粒の涙を一つだけこぼしました。そして、からだはバラバラに砕け散ってしまったのです。
式をすませてかえった青年は、砕け散ったガラスの馬を見て、とても悲しみました。
青年は、砕け散ったガラス細工の馬を、一つ一つひろいあつめてガラスの箱に入れ、庭の片隅に小さなお墓をつくってあげました。
ガラス細工の馬が、最後にこぼした大粒の涙は、青い青い石になりました。
その石は、「かなしい、かなしい」と叫び声がきこえそうなほど、さびしげな青い石になりました。
ガラス細工の馬の思いが、通じたのでしょうか。
青年は、ガラス細工の馬と同じように、その青い石を大切にあつかい、一生はだみはなさず、小さなふくろに入れてもっていたそうです。
おわり
★この作品は、私が高校生の頃に書いた作品です。
あいだをあけて、昭和60年に、山梨日日新聞に投稿して、その年の童話の部で、年度賞の佳作に選ばれた作品です。
未熟な自分を
すべてさらけ出すことによって
少しでも、成長することが出来たら…と思っています。
よろしかったら、感想など、お聞かせ頂ければ、嬉しく思います。