染色を志して、気付けば今年で30年の節目を迎えておりました。何年たっても楽しくて、次に何を染めようか、どんな布にどんな風に染めようかと考えます。染色は奥が深く、大変魅力的であります。その染色に出合えて幸運でした。憧れの京都で油彩を学び、その後伝統工芸のろう結染を習得し、帰郷してから染色活動を始めました。近年までには、結婚、子育てと無我夢中で走ってまいりました。振り返ると少しの時間でも筆を持っているほど、染色は常に生活の一部で、唯一自分だけの時間であり、支えてくれるものでありました。
染色活動を始めて十数年は、黒猫と季節の花をモチーフにして、描を通して心情を表現しておりましたが、私の末娘が小学校入学の頃、
自然破壊、宗教問題、クラス崩壊、子供のいじめや自殺など心を痛める事ばかりで、親として子供が夢を持ち健やかに育っていけるだろうかと、
不安な気持ちになりました。そこで、私のできる事、染色で何か伝えられないかと思い、テーマを「子供たちへのメッセージ」とし、夢の
ある虹と、球根から根を張り、地から芽を出してかわいいつぼみとなって花を咲かせるチューリップを子供に例えてモチーフにしました。
子供たちが夢を持ち、未来へ飛翔していってほしいと願って制作をして10年目、平成12年日展人選作品「夢、そして希望へ」と平成16年日展入選作品「夢から」が文部科学省検定教科書、高等学校「国語表現I」の表紙となり、平成15年から23年まで、二冊に使われています。
作品からテーマが伝わった事が大変嬉しく、また何万人もの子供たちが目にする教科書となり、今後の励みになるとともに感無量の思い
でいっぱいです。
今、私の子供3入も夢を追いかけ奮闘しています。まだまだ夢の途中だけれど、夢をつかんでほしいと願っています。
今後も人間として親としての普遍的な心情を表現していきたい、また蝋結染の技法を基に、新しい表現を模索しつづけていきたいと思って
おります。そして30年の節目にこれまでの制作を回想し、再び原点に立ち戻る考えております。 |